芸能人のさせていただく事例
イケメンのかけ出し俳優は記者会見で「今回レッドカーペットを歩かせていただいて」「これで会見を終わらせていただきたいと思います」といいます。
不祥事で謝罪会見をひらくと、決まって「わたくしからご報告させていただきます」といいます。
アイドルや女優の結婚報告のコメントでは「かねてよりお付き合いをさせていただいている方と結婚をさせていただくこととなりましたことをご報告させていただきます」といいます。
とても頭のいい人でも謝罪会見をひらくと「お詫びさせていただきます」「謝罪させていただきます」といいます。
お笑い芸人の謹慎処分が解けると「頑張らさせていただきます」とまた過ちを犯します。しかも、「さ」入れ言葉バージョンです。
バラエティー番組のMCを務めるお笑い芸人は、必ず「本日司会を務めさせていただきます〇〇と申します」といいます。
若手のイケメン歌手は新曲を歌うときに「今回歌わせていただくのは」と曲紹介をします。
バラエティー番組の最後に「今度、僕が出させていただく〇〇」と番宣します。
お笑い芸人と女優の結婚会見では「6月3日に入籍さしていただきました」と複数の日本語における間違いを発言します。
させていただくアレルギー
なんでもかんでも「させて頂きます」と言えば丁寧で印象がいいと思っているのでしょうか。はたまた、「俺は謙譲語もちゃんと使えるぞ、どうだすごいだろ?」と顕示欲をアピールしているのでしょうか。意識高い系の残念な若者あるあるです。
わたしはこのような意味を理解せず発言されるお門違いな「させていただきます」が大嫌いです。もっと嫌いなのが「さ」ではなく「し」の「さしてもらって」です。
タレントのトークを聞いていると、させていただきますの前兆がわかってしまい、一瞬カラダが震えたような感覚を覚えます。これだけ嫌悪感を抱くと、させていただきますアレルギーなのかと思えてきます。
そんな細かいことどうだっていいでしょ、と変人扱いされるかもしれません。しかし、日本人であれば最低限の日本語くらい正しく使おうよ、と思ってはいけないのでしょうか。
そもそも「させていただく」とは
相手の許可を受けることで、自分が恩恵を受ける場合に使います。
たとえば、「今度の金曜日、休ませていただけないでしょうか?」これは、今後の金曜日に有給がとれると大好きなアイドルのライブに行ける、といった場合なら正しい使い方です。
学のない成り上がり集団が原因か
なぜこんなにも近年の日本で「させていただく」が蔓延しているのでしょうか。わたしが気になり始めたのは10年ほど前にダンスボーカルグループがやたら言葉遣いに気をつかいはじめ、そこから若手を中心に広がっていったような気がします。
もしくは、社長を過度にリスペクトする縦社会が根強い体育会系の組織、上下関係を意識しすぎておかしくなってしまったのでしょうか。
「先輩の自宅でお酒を飲まさせていただいて」「ドームツアーやらせていただいて」、彼らの出演するテレビ番組はいつもこんな感じ。させていただくに反応するアレクサがあれば、10分に1回は「ごめんなさい、よくわかりませんでした」と言うでしょう。
無許可でさせていただきまくり
「今回は僕が作詞さしていただいたんですけど」と言われても、「いや、知りませんけど」と。本人は事務所の許可を得て作詞に挑戦することができたからその恩恵を受けたかもしれませんが、わたしたち大衆にはまったく関係のないことです。
「演じさせていただいた」「わたしが主演を務めさせていただいている〇〇は」「今回やらせていただくのは」も、まったく出演を許可した記憶がありません。
結婚報告のコメントにある「かねてよりお付き合いをさせていただいている方と」、いやいや、なぜあなたたちの交際にわたしたちが承諾したことになっているのでしょうか。
また、結婚会見の「入籍さしていただき」も、わたしたちはあなたのお父さんではありませんよ、と。
「結婚させてください」「結婚させていただけませんか」と相手の両親に言うのなら、これは相手の「承諾=結婚OK」を得て自分が「恩恵=結婚」できるわけですから正しい使いかたといえます。というか、これが本来の使いかたです。
濃厚すぎるへりくだりかた
結婚報告、記者会見、謝罪会見に必ずある「ご連絡させていただきます」「ご報告させていただきます」は、そもそも二重敬語です。この二重敬語は芸能人はもちろん立派な大学を卒業している人でも、よく間違えています。
「以前、番組でご一緒させていただいたことがあるんですけど」「僕も拝見させていただいたんですが」、これにも違和感をいだきます。
「拝見」はそもそも謙譲語で、この言葉でじゅうぶんへりくだっています。なのに、さらにへりくだって「拝見」+「させていただき」と、どんだけへりくだるんでしょうか。
YouTuberはよく思います
さらに最近では「〇〇をしてみたいと思います」という「思います」多用問題も発生しています。
これはとくにYouTubeでよく聞くフレーズです。ユーチューバーによる商品紹介系の動画で多用されています。
例えば、「トヨタの新型〇〇かっこいいですねー。では、さっそく試乗してみたいと思います」
「届きましたよ!新型iPhone。では、今から開封してみたいと思います」
「このペンキは少し薄めてから塗っていただければいいかと思います」
いちいち「思います」と言わなくてもよくありませんか?
例えば、「トヨタの新型〇〇かっこいいですねー。では、さっそく試乗します」や「開封してみます」。
「このペンキは少し薄めてから塗ってください」や「塗っていただくといいです」。
なんで車に試乗しようと思ったことをわざわざ伝えるのでしょうか。本当はペンキを薄めて塗ってもいいか定かではないのでしょうか。
けっきょく疲れるのはわたし
わたしは上司が「ご連絡させていただきます」と取引先に言うと、なんだか情けない気持ちになるのと同時に「バカだなぁ」と思ってしまいます。
また、「〇〇だと思います」ではなくて「〇〇です!」と潔く言い切ることもできないものかと。
最近ではNHKのアナウンサーも正しい日本語が使えていません。
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